特集記事 ISMS基礎 10 min read

業務を「見える化」する
フローチャート作成のイロハ

フローチャート(流れ図)は、複雑な業務を整理し、チーム全員で共通認識を持つための最強のツールです。
本資料では JIS X 0121(情報処理用流れ図)規格に基づいた標準ルールを解説します。

1

これだけは覚えよう!基本の7記号

開始 / 終了

端子 (Terminator)

フローチャート全体の「開始」と「終了」を表します。

すべてのフローは必ずこの記号から始まり、終わります。
処理

処理 (Process)

具体的な「作業」や「計算」を表します。

「計算する」「記入する」など、1つの記号に1つの処理を書きます。
入出力

入出力 (Data)

PCへの「入力」や、PCからの「出力」を表します。

キーボード入力やデータ読み込み、単純な出力処理に使用します。
条件?

判断 (Decision)

Yes/Noで分岐する「分かれ道」を表します。

必ず複数の矢印が出て、「はい」「いいえ」などの条件がつきます。
書類

書類 (Document)

人間が読む「紙の資料」や帳票を表します。

印刷物、レポート、請求書の発行や参照を示すときに使います。
データベース

データベース

情報の保管場所や、マスターデータの参照を表します。

顧客台帳や在庫データなど、蓄積された情報の読み書きに使います。

線 (Line)

処理の「順序」や「流れ」を示します。原則として「上から下」へ引きます。

便利なその他の記号(クリックで展開)
記号 名称 意味・用途
表示 (Display) モニター画面などへの情報表示を表します。
手操作入力 キーボードなど、人間が手動で行う入力操作を表します。
定義済み処理 別の場所で定義されている一連の処理(サブルーチン)を呼び出します。
結合子 線を中断し、同一ページ内の離れた場所へつなげます。
ループ端 繰り返しの「開始」と「終了」を表します。
2

すべての基本となる「3つの構造」

どれほど複雑なプログラムや業務も、実はこの3つのパターンの組み合わせだけでできています。

1. 順次構造

処理A
処理B

上から下へ、順番に実行する最も基本的な形です。

2. 分岐構造

No Yes

条件(Yes/No)によって、進む道が分かれる形です。

3. 反復構造

ループ開始 処理 ループ終了

ループ端記号で囲むことで、繰り返しの範囲を明確にする書き方が一般的です。

【脱・初心者】ループ記号の正しい使い方

「同じ作業を繰り返す」場合、矢印を上に戻す書き方(判断記号利用)もありますが、
ループ端(Loop Limit)記号を使うと、どこからどこまでが繰り返しなのか一目で分かり、推奨されています。

書き方のルール

  • 1
    サンドイッチにする 「ループ開始」と「ループ終了」の記号で、繰り返したい処理を挟みます。
  • 2
    同じ名前をつける 開始と終了の記号に同じ「ループ名」を書きます。(例:データ全件処理)
  • 3
    条件を書く 「いつまで繰り返すか」を開始記号の中に書きます。
開始(逆台形) 終了(台形) ループ名:宛名ラベル印刷 条件:顧客リストの全件終了まで データを1件読み込む ラベルを印刷する 宛名ラベル印刷
3

作成の5ステップ

1

目的と範囲を決める

誰のために、どの業務範囲を書くのか明確にします。(例:「新人向けの交通費精算手順」など)

2

作業をすべて書き出す(箇条書き)

いきなり図を描かず、まずはメモ帳などにタスクをすべて洗い出します。順序は気にしなくてOKです。

3

順番を整理する

書き出したタスクを時系列に並べ替えます。「誰が」やるのか担当者も明確にします。

4

記号を使って図にする

記号を使って清書します。矢印でつなぎ、分岐条件(Yes/No)を書き込みます。

5

現場の人に確認してもらう(レビュー)

実際の業務と合っているか確認し、修正して完成です。

4

基本:スイムレーンで「誰が」を明確に

複数の部署や担当者が関わる業務フローを書く場合、「スイムレーン(プール)」を使って担当ごとにエリアを区切ると、役割分担が一目でわかります。

  • 縦または横に線を引き、担当者名(例:営業部、経理部)を書きます。
  • 記号をその担当者のレーン内に配置します。
  • レーンをまたぐ矢印は「責任(ボール)の受け渡し」を意味します。
    営業 経理
営業担当 経理担当 利用システム 申請書作成 経費精算システム 承認処理
5

【重要】フローチャートとリスクの紐付け

フローチャートの作成は「絵を描いて終わり」ではありません。
各記号の右側に、「そこで発生しうるリスク」「発生頻度」を書き出し、リスク評価シートと連携させることが必須のルールとなっています。

実際のフォーマット記入例

業務フロー図
業務フローに潜むリスクの洗い出し
担当者(自部門)
システム/他部門
作業内容(詳細)
リスク(どのような事象が発生するか?)
発生頻度
メール受信
顧客からの依頼メールを受信し、内容を確認する。
見落としによる対応漏れ
返信メール作成
回答を作成し、送信ボタンを押す。
宛先間違いによる情報漏洩(メール誤送信)
Point: 図を描くだけでなく、その作業に「どんな失敗(リスク)の可能性があるか」を各記号の右側に書き出し、「どのくらいの頻度で起きそうか」までセットで記入してください。 ここが空白だと、リスクアセスメント(評価)へ繋げることができず、ルール違反となります。

きれいに描くコツ (Good)

  • 流れは基本「上から下」
  • 記号のサイズを統一する
  • 記述は「動詞」で終わる短い文にする(例:確認する)

避けるべきこと (Bad)

  • 矢印の線(流れ線)を交差させすぎる
  • 作業の流れと逆方向に矢印を描かない(作業を逆流させない)
  • 1つの箱に複数の処理を詰め込む

重要:なぜ「正しく」描く必要があるのか?

「適当に作るとISO審査で不適合になる」という事実を知っていますか?
実際に、当社のISO審査において「業務フローが適切に作られていない」ことが多数検出され、正式に「不適合」と認定された事例があります。

実際の指摘事項(失敗事例)

Bad 1つの箱に複数の処理を詰め込む
(例:「受注処理」という大雑把な箱1つで済ませてしまう)

何が起きたか?

大雑把なフロー図では「メール誤送信」や「確認漏れ」といった具体的なリスクが見えなくなりました。その結果、リスク対策が行われず、実際にセキュリティ事故が発生してしまいました。

私たちが守るべきこと

  • 作業単位で細かく描く:「いつ」「誰が」「何を」するのか、手順を省略せずに描きましょう。
  • 実態と合わせる:「これくらいなら変更しなくていいや」という判断が一番危険です。業務が変われば、必ず業務フローも更新しましょう。

正しい業務フロー作成は、単なる作図作業ではなく、
「お客様の信頼を守るための契約履行」 です。